もう30年近く前になるんだね。
1995年にCBSソニーから離れて
自分のレーベル「ハーベストムーン」を
立ち上げた。
その第一弾のレコーディングを
音楽生活のスタートである街、札幌と決めた。
東京から久保田さん、キーボードの
岩崎さん、そして札幌在住の アレンジャーで
アーティストの阿部さん。 彼は僕の
ホームページの初代大家さんでもあった。
扇柳さんとはそのレコーディングに
参加していただいて以来のお付き合い。
ケーナが 欲しい曲があったのだが
札幌ではツテがなく東京のスタジオに
持ち越そうと思っていたのだが、
アイルランドの民謡でよく使われる
ティン・ホイッスルの奏者なら 札幌に
こんな人がいるよと扇柳さんを紹介して
いただいたのだった。彼は当時
アイリッシュ音楽のグループのメンバーだった。
正直 ペルーのフォルクローレで使う
ケーナとあまりにも違うようなら
呼んでおいて申し訳ないが
丁寧にお断りしようと 思っていた。
スタジオにやってきた扇柳さんは、
寡黙そうで、 まだ少年の面差しの残る
穏やかな印象の人だった。
「 早速ですがまずは 一度オケを聴いていただいて
イメージを作って下さい。その後で録音しましょう」
と扇柳さんに声をかけた。すると彼は小さな声で
「あのぅ、 家で聞き込んできたのですぐに
始めてもらっても大丈夫です」と言った。
お願いしたのは確か2日ほど前のことなので、
まじかと思ったが 本人がそう言うのだから
「それではよろしくお願いします」と
スタジオに入ってもらった。
まずはイントロからお願いします。
やがて曲のイントロが流れてきた。
喋り出すものは誰もいない。
縦笛に乗せた彼の指先をみんなが見ていた。
彼がホイッスルを弾き始めるとスタジオにいた
僕たちは思わず「なにこれ?」と お互いに目を
見合わせた。 それほど扇柳さんの演奏は僕が
やってほしいと思っていた演奏の上をいっていた。
ワクワクするようなイントロのメロディを
聴かせてもらってこちらはすでに有頂天。
「この勢いでじゃあ次は間奏をお願いします。
確認がてら間奏の場所を聴いてみましょうね。」
「あのぅ、 家で聞き込んできたので
すぐに始めてもらっても大丈夫です」
感想も素晴らしかった。
調子に乗った僕はこんなお願いをした。
「いま、思いついたんですけど 歌中でも
裏メロような形で拭いてもらっていいですか?
じゃあいちど聴いてみま・・・・」とは言わず
そのまま演奏してもらった。
ティン・ホイッスルの録音は、
2~3回ほど回して終了した。
アルバム「ハーベストムーン」の中の1曲
「 夢に逢えるまで」の扇柳さん奏でる縦笛を
いちど聞いてみて下さい。
彼の縦笛はケーナほど土着的ではなく、
アイルランドの妖精達が森から吹いてくる
風に踊っているかのよう・・・言い過ぎた。