札幌のアマチュア時代に「NSP」の前座を務めた事がある。
もちろん「NSP」の三人と知己があったわけではない。肩入れしてくれていた札幌のラジオ局のディレクターの計らいだった。
その年の6月に上京してレコーディングそしてデビューという
道筋が決まっていたので、今から色んな経験を積ませてあげよう
という事だったのだろう。
アマチュアながら札幌ではそれなりの知名度はあったので、
前座としてステージに上がった僕らを地元の客席は大いに
歓待してくれた。後日談になるが、ステージ袖でそれを見ていた
天野くんは平賀くんに「ヤバいよ、ヤバいよ。」と
走り寄ったそうだ。 出川の哲ちゃんか!
打ち上げに呼ばれ、広い座敷の末席に座っていた。
暫くして天野クンは瓶ビールの首をつまんで笑顔のまま
すこし揺れる足元で僕のところに歩いて来てくれた。
「君たちいいねぇ、良かったよ。プロになれると思うよ。」
と言ってくれたのだった。僕がその年にプロになる事を告げると、東京に来たら連絡して欲しいと、彼は連絡先を渡してくれた。
予定どおり6月に上京しすぐにデビューアルバムの制作にはいる。
デビューは9月21日と決まった。
一段落して、後はデビューを待つだけと言う時に、
そうだ「天野さん」に電話してみようかと思ったのだが、
(この時はまだ年上だと勝手に信じ込んでいたのだ)
何故か躊躇してしまい電話出来なかった。
「あぁ、札幌で会った細坪?そう、ホントに電話くれだんだ。」
みたいに、酔ってつい言ったのにホントに電話来ちゃったよ、
面倒くさいことになったなぁ。と思われたらこちらも
いい感じではないし・・・なんてことを考えて遠慮したのだった。
デビュー曲「白い冬」はヒットし、コンサートも続々と組まれ、
忙しい東京での暮らしが本格的に始まった。
そんな折り、「そうだ、天野さんに連絡してみようかな。」
との思いがふいに浮かんだ。そこそこ名前も知られてきたし
僕から連絡しても、そうそう無碍にはしないだろう・・・。
そうなのだ、私は案外小心者で姑息なのだ。
「おお、久し振りぃ、売れたねぇ、おめでとう、良かった、
良かった。会おうよ。」僕の電話を受けて天野クンはそう言った。
渋谷のエピキュラス傍の「シルクロード?」という喫茶店へ
教えられた道筋通りに歩いていった。
ちょうど僕は六本木から渋谷に引っ越したばかりだった。
淡いペパーミントブルーの壁がおしゃれな階段を下りて
お店の扉を開けると天野クンが嬉しそうに笑って手を振った。
「ここのice coffeeが美味いんだ。」
氷のたくさん入った大きめのグラスの中に、
サイフォンに入った淹れたての熱いエスプレッソを店員さんが
ゆっくりと注ぎ込む。氷が溶けてゆきかなり濃いめコーヒーは
程よい味わいになってゆく。あまりの美味しさに当時で
800円もしたice coffeeだったが、僕は二杯目を注文した。
その時、同席していた天野クンの友人は
「ふきのとうって儲かってるんだなぁ。」と思ったそうだ。
は、は。私が子供なんです。
天野クンも渋谷に住んでいる事を知る。
お互いのスケジュールを確認しながら
OFFの日は天野クンに渋谷界隈のお店を案内して貰った。
東京に出てきて、初めて出来た友達だった。
ほんとは、「ベルボトムエピソード」を書くつもりで、
まずは出会いの事から触れておこうと思って
書き始めたんだけど思いの他長くなってしまった。
でもほんとはまだまだ足りない・・・。
「ベルボトムエピソード」はまたいずれかの機会に
取っておくことにしますね。
お酒を飲むとすぐに真っ赤な顔になる天野くんが、
ほとんどお酒を飲まないと知ったのは
彼が天国に引っ越した後だった。
PS
そんな事で、今日もMoonMovieは「スリーハンサムズ」
中村くんのあとは平賀クンボーカルでどうぞ、
さぁ、何かな?