15年以上も前になるだろう。それがここ「希望ホール」だった。
前日に酒田入りしたのだが、打ち合わせも
食事会もないので遅い夕方からひとりで久しぶりの
酒田散策と洒落てみた。
ホテルを出て当てもなく歩き出したが
人ひとり歩いていない。おそらくここらあたりは
街の中心街ではないのだろう。
時代物の住宅が並んでいる石畳の小道が続いてる。
それはアスファルトだったかもしれないが、
風化した記憶の奥でもう僕の中では石畳なのだ。
あたりはもう暗くなっている。
街全体が霧に包まれているようだった。
闇と霧とあるかなきかの街路灯の黄色。
おや、前方に小さな人影が見える。
それは立ち止まったまま動かない。
少しづつ僕と人影の距離は縮まってゆく。
「おしん」だった。
T字路の突き当たりの建物の脇に小さな像が立っていた。
テレビと同じ汚れた服を着た「おしん」だった。
思わず踵を返して急ぎ足でその場を離れた。
宿泊しているホテルのあるらしい方向へ
誰もいない道をあたふたと歩き出す。
びっくりしたなぁ、おしん・・・。
しばらく歩いてゆくと薄暗い道が続く先に
照明の灯いている掲示板があって近寄ってみると
希望ホールと書いてあり、ガラス張りのウインドウの
中に僕の明日のコンサートのポスターが貼ってあった。
「そうなんだ。ここでコンサートやるのか・・明日。」と
ぼんやり掲示板のむこうの大きな会館の黒い
シルエットをもっとはっきり見ようと目をほそめた。
「明日、よろしくな。」と言われた気がした。
幻想のような、夢の出来事のような、切ないノスタルジー
のような、でもなぜかいつまでも心にリアルな酒田の
記憶をこの町に来るたびに思い出すんだろうなぁ。
もう一度、歩いてみたいなぁ、霧につつまれた石畳。
酒田のみなさん、4年振りでした。
こんどまた逢えるといいね。
ありがとうございました。