駅に向かう商店街の道を僕と並んで歩いていたアパートの住人は、とても自然な感じで話を続けた。「僕、もう死んじゃおうかな。
って思っちゃって、睡眠薬を買ったです。」
それでね、分けて飲む必要も無いので全部一気に飲んじゃったんです。それで、ベッドに横になってね。しばらくぼーっと
住み慣れた部屋を首だけ回してながめていたんですね。
あんなことがあったなぁ、こんなこともあったなぁ、
なんて思い出を数えるみたいなことしながらね。
そのうち、思い出すこともなくなり、あぁ、二日も経てばこの部屋に大家さんが来る、警察が来る、田舎の両親も来るだろうなぁ。
なんて思いながらあらためて部屋を見渡してみるとね・・・。
と、そこまで言って僕を見ながら「ふっ」と笑った。
とにかく部屋が汚いんですよ。
今までそんな事考えたことも無かったのにねぇ。
いざとなるとなんかカッコつけたくなるんですかねぇ。
それでね、ベッドからゆっくり起き出しておもむろに
部屋の掃除を始めたんですよ。
えぇ、その時はまだ眠気はなかったですよねぇ。
そう、いまこうしているってことは死ななかったんです。
カーペットの上で腹ばいの格好になって目が覚めました。
部屋の片付けしをながらいつの間にか気を失っちゃったんでしょうかねぇ。日付を確認して見ると、きっちり丸3日寝ていたことになるんですね。とてもさっぱりしてましたね、目が覚めた時は。
その上、受験の失敗やらプライドやら、なんやかんや今まで
悩んでいたことが、とてもちっぽけな事に感じてね。
何かが落ちたみたいに軽くなりましたね。だから、
君が僕に思っている様な傷心の帰郷じゃないんですボク。
元気なんです。
本当にいいんですか?
この先に玉が良く出るパチンコ屋があるんです。案内しますよ。
僕は、絶対に行く事のないパチンコ店への道案内を辞して、
駅までの道を急いだ、そして
初めて自分の「将来」について漠然と考えていた。
この季節になるとあの兄さんのことを思い出す。
そして、あの帰り道に漠然と脳裏に浮かべた自分の「将来」を
今こうして生きているという不思議を思う。
いろいろあるけど、人生ってやっぱり止められないね。
ちっぽけなな夢だって ありふれた暮らしだって
君のためだけに用意されたもの・・・
今日のMoonMovieは「クロスロード」にしよう。