中津市の名物の「玉羊羹ですよ、このね、爪楊枝でチョンと
突っつくとプリンと皮がむけるんですよ。これがなんか
面白くてねぇ。どうぞどうぞ食べて下さい。」
先代住職さんの奥さんであろう。
人見知りしない、お話好きそうなおばぁちゃん。
おそらくこうして何十年も、立ち寄る檀家さんや
時々お墓に線香を上げに来る信徒さんに、
お茶やお菓子でもてなし、住職さんのサポートを
続けて来たんだろうな。
元々お話好きのおばぁちゃんなのだろうが、
こうした日々の中で育まれたのかもしれない。
遠慮している私達を見かねたのか
「じゃぁ、わたしがまず爪楊枝をさしてみますね。」と、
おばぁちゃんは赤い玉羊羹に爪楊枝をブスっと突き刺す。
すると、プリンと剥けるはずの皮はそのままで
爪楊枝だけが刺さったままの状態になった。
さしずめ、大きめのサクランボ。
「あら、おかしいわねぇ、いつもプリンとむけるんですよ。」
おばぁちゃんは、つぎつぎと玉羊羹に爪楊枝を刺していった。
おばぁちゃんと玉羊羹の戦いを固唾をのんで
見ている私達の願いも叶わず、
玉羊羹の皮がプリンとむけることは一度もなかった。
「でも、美味しいですよ。」と笑いながら口に運ぶ山内さん。
しばしの時が流れて、おばぁちゃんが答えを見つけた。
おばぁちゃんが、用意してくれた羊羹は、
中津市の名物ではなく、名古屋産のものだったのだ。
「中津市のはちゃんとプリンとむけるんですよ。」
いかにも残念そうなおばぁちゃん。
「でも、美味しいですよ。」と笑いながら口に運ぶ山内さん。
この後、僕がギターの弦を張り替えている間、
ずっと隣に座っていろんな話を聞かせてくれた。
おばぁちゃんが好きになっちゃった。