79年に「木精」というソロアルバムを
発売した後、全国ツアーを開始した。
その初日が桐生だったと思う。
今でもはっきり覚えているんだ。
「ゆうすげ」と「木精」を続けて歌った。
2曲続けると フォークソングと言う
枠の中では相当長い歌となる。
サポートメンバーに助けられて
渾身の思いで唄った記憶がある。
そして歌い終わった後、 終わりのない
波のような拍手の中で、 スローモーションの
ような映像で客席をゆっくり見回している
自分を覚えているのだ。
ひとりの自分が俯瞰でステージの自分を
見ているを感じている。
今で言うところの「ゾーンに入る」と言うか、
これが「 トランス状態」と言うものなのか
とにかく今まで味わったことのない感覚だった。
「木精」を 作ってよかったなぁと思った。
きっと俺は一皮むけたのだと有頂天になって
次のコンサートに挑んだのだが次の
コンサートはいつもの普通のコンサートだった。
「やっぱりな、 桐生がおかしかったんだ」
と言う結論に至った。
そしてその後、 似たような感覚はあっても
桐生の時のような心の状態には
一度もなったことがない。
音楽って時々おかしなことをするよね。
とまぁ、そんな忘れられない思い出が
桐生のステージにはあるのだった。