ところが、「あり得ない事件」が起こってしまいました。
順調にリハーサルを終えて楽屋で本番の準備をして、定刻スタートと言う事で5分前に久保田君と連れだってステージ袖に待機していた。ところが音響チームが慌ただしくインカムでやり取りしている。走り出している者もいる。どうしたのかと聞いてみると音響の卓・・演奏したすべての音を取り込んでバランス良くした後に大きなスピーカーから客席の皆さんに届ける為の要となる機械が本番直前に急に壊れたようなのだ。「卓がバグった。」と表現していたが原因がつかめず右往左往している。
「どのぐらいで、元に戻る?」と聞いたところわからないとの返事が返ってきた。スタッフチームは必死に究明しているが、すでに開演時間を5〜6分ほど過ぎている。
「マイク1本だけでも使える?」
「いえ、どの音もブチブチ言ってまだ原因がわかりません。」
そんな会話を聞いていたホール専属の方が「リバーブも音質も変えられませんがホールのマイクならホールのスピーカーから出せます、スピーチ専用ですが。」と言ってくれた。
「僕がトークで繋ぐから迅速に原因を見つけてね。」そう言って僕は渡されたマイクを握りしめて「何か起こっているな?」と
動揺し始めている皆さんの待つステージへ急いで歩き出した。
僕が客席のみなさんとトークでやり取りしている間、
音響チーム、ホール専属スタッフ達が何とか復旧しないものかと
いろいろ試みるが、やはり持ち込んだPA卓の復旧は不可能だという判断が出たようだ。
では、新しい卓をPA会社の倉庫から運び込んで来てシステムを作り直すという事はどうか?その方法はあまりに時間がかかりすぎて現実的ではない。ならば、会場にある機材で何とかやり繰りできないものか・・・。スタッフが一生懸命に試行錯誤してみるものの、
残念だがこれではお客さんに満足のゆく音楽を提供する事は
出来ない。ならば他に手はないのか・・・。
これ以上お客さんを待たせるわけにはいかない。
あらゆる方法を考えたが、サンデーフォークの市川さんと
フラットアースの竹内さんを含めスタッフが最後に出した結論は
延期というものだった。
先ずはその事をステージの細坪に知らせなければならない。
「僕が行くのが自然かな。」と久保田はステージにむかった。
その後、客席の皆さんに「延期」の報告とお詫びを申し上げ、
マイクを通さない生のピアノとギター、リバーブの乗らない生声を拡声するマイクとで4曲唄った。
不謹慎ではあるが、通常の音響では味わう事の出来ない「地場」が
「音響」がとても新鮮で唄っていて楽しささえ沸いてきた。
このアンプラグド状態でコンサートを成立させる事も出来るかもしれないと言う考えも浮かんだが、こんなチープな環境ではやはり来ていただいた皆さんに申し訳無い。延期という決断は正解だと思う。
原因の報告は未だにない。音響プロも解明出来ないということか。
デジタル時代は不備か起こると、少しの痕跡も残さず跡形も無くすべてを抹殺するのだね。
楽しみに参加していただいた皆さんをこんな「事件」に巻き込んでしまい本当にごめんなさい。
「振り替えコンサート」の日程は早々に連休明けに発表すると
聞いています。
「その日」は、最高のステージにする事を約束させてください。